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国立競技場サブトラック不在の真相!なぜ常設できず仮設頼みが続くのか

桂木 凌 桂木 凌 • 更新: • 公開: • 読了約 10 分
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日本スポーツの最高峰の舞台として君臨する国立競技場。東京2020大会を経て、2025年秋に開催された「東京2025世界陸上」でも熱戦が繰り広げられた記憶は新しいところです。しかし、この華々しいスタジアムには開場当初から致命的とも言える構造的欠陥が指摘され続けてきました。それが「常設サブトラック(補助競技場)の欠如」です。

国際陸上競技連盟(現・ワールドアスレティックス)の基準を満たす大型国際大会を開催するには、ウォーミングアップを行う400メートルトラックがスタジアム至近に不可欠とされています。巨額の国費を投じて建設されたメインスタジアムでありながら、なぜ隣接する常設サブトラックが整備されなかったのか。その経緯と現在の運用実態、そして未来への課題を徹底取材で紐解きます。

【最大の疑問】国立競技場に常設サブトラックがない理由は?計画見直しの舞台裏

国立競技場サブトラック

国立競技場に常設の補助競技場が存在しない最大の理由は、建設用地の極端な狭さと、2015年に起きた新国立競技場計画の白紙撤回劇にあります。

旧国立競技場には、敷地内に小規模なウォーミングアップ用走路こそあったものの、正式な400メートル規格のサブトラックはありませんでした。建て替えに際し、当初採用されたザハ・ハディド氏のデザイン案では、周辺の明治神宮外苑地区を大規模に利用する構想が含まれていたものの、2,500億円超に跳ね上がった莫大な工費と巨大すぎるボリュームへの世論の猛反発を受け、政府は2015年夏に計画を白紙に戻しました。

その結果、急遽策定された隈研吾氏らの現スタジアム案では、「徹底したコスト削減」と「工期短縮」、そして「神宮外苑の風致地区景観への調和」が最優先命題となったのです。明治神宮外苑は建ぺい率や容積率、建築物の高さ制限が都市計画法などで厳格に定められており、メインスタジアムの敷地を確保するだけで限界でした。400メートルトラック1面を新設するには広大な平坦地が必要ですが、近隣にそのスペースを捻出する余地はなく、常設化は基本設計の段階で完全に除外されたのが偽らざる真相です。

「第1種公認」の壁|なぜサブトラックがないと国際大会が開けないのか

陸上競技場におけるサブトラックの有無は、単なる利便性の問題にとどまりません。日本陸上競技連盟(日本陸連)および世界陸連の施設規則において、「第1種公認陸上競技場」の認定を受けるためには、競技場の至近に日本陸連第3種以上の公認を有する400メートルの補助競技場を常設することが厳格な要件として定められています。

第1種公認スタジアムでなければ、オリンピックや世界陸上はもちろん、日本陸上競技選手権大会のような国内最高峰の選考会すら原則として開催できません。選手が招集所に入る直前まで本番と同じコンディションでアップを行う環境がなければ、公平な競技運営が成立しないためです。

現在、国立競技場は「特例」や「臨時措置」として公認を得て大会を実施していますが、通常時は第1種としての条件を満たしていません。日本を代表するナショナルスタジアムが、ハードウェア基準上は単体で最高ランクを維持できない構造的ジレンマを抱え続けています。

サブトラックはどこに設置される?代々木公園案と仮設運用のリアル

常設スペースがない国立競技場で大型大会を開催する際、主催者はどのように対応してきたのでしょうか。その答えが「巨額の費用をかけた仮設トラックの設置」です。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では、明治神宮外苑の軟式野球場エリアを一時的に借用し、大会期間中だけアスファルトとウレタン舗装を敷き詰めた仮設の400メートルトラックを突貫工事で建設しました。大会終了後はすべて撤去され、更地に戻されています。

さらに「東京2025世界陸上」の開催準備過程で激しい議論を呼んだのが、代々木公園への仮設サブトラック設置構想でした。神宮外苑地区の再開発スケジュールや野球場の利用制限との兼ね合いから、直線距離で約1.5キロメートル離れた代々木公園の織田フィールド周辺を活用する代替案が浮上したのです。

しかし、メインスタジアムとサブトラックが遠く離れると、選手はアップ後に専用車両で道路を移動しなければならず、渋滞リスクや招集時間の調整など競技パフォーマンスに深刻な悪影響を及ぼします。結局、輸送オペレーションの過度な負荷を避けるため外苑周辺での仮設対応が軸となりましたが、大会ごとに数十億円規模の仮設設営・撤去費用が消えていく非効率なサイクルは、今なお抜本的な解決に至っていません。

日本陸連の常設化要望と神宮外苑再開発|なぜ実現しなかったのか

もちろん、陸上競技関係者が手をこまねいていたわけではありません。日本陸連は計画初期から現在に至るまで、文部科学省や日本スポーツ振興センター(JSC)、東京都に対して「恒久的なサブトラックの確保」を粘り強く要望し続けてきました。

一時、救死一生の希望と目されたのが、スタジアムに隣接する「明治神宮外苑地区の再開発事業」でした。神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所を入れ替えて建て直す大規模な区画再編に乗じ、補助競技場を地区内に恒久施設として組み込めないかという議論が水面下で交わされたのです。

しかし、この再開発計画そのものが樹木の伐採や歴史的景観の破壊を巡って市民運動や文化人から猛反発を受け、工事スケジュールの遅延や計画見直しのプレッシャーに晒されることとなりました。ただでさえ野球場・ラグビー場・商業ビルの配置で土地利用の余白がない中、さらに広大な面積を占有する陸上トラックを新規にねじ込むことは行政的にも事業主体的にも合意形成が不可能であり、常設サブトラック構想は事実上頓挫した形となっています。

民営化の行方と陸上トラック存続問題|黒字化とスポーツの聖地の間で

国立競技場の未来を左右するもう一つの重要テーマが、民間企業グループへの運営委託を伴う「コンセッション方式による民営化」です。

大会終了直後、年間維持管理費が約24億円に達する巨額赤字を回避するため、「陸上トラックを撤去して観客席を増設し、サッカー・ラグビー専用の球技スタジアムに改修する」という計画が真剣に議論されました。ピッチと観客席が近い球技専用スタジアムのほうが集客力が高く、音楽コンサートの動員面でも収益を上げやすいためです。

しかし、東京2025世界陸上の招致成功やアスリートたちからの強い反発を受け、政府はトラックの存続を正式に決定しました。これにより陸上競技の拠点としての命脈は保たれたものの、経営面では厳しい制約を背負い続けることになります。運営権を持つ民間事業者は、普段は陸上大会で満席にすることが極めて難しい巨大施設を、いかにアーティストのスタジアムツアーや他イベントで埋め尽くして黒字化するかという極限の採算ラインに直面しています。

【国立競技場のサブトラック問題】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:国立競技場のサブトラックは現在、どこにあるのですか?
A1:現在、国立競技場には常設のサブトラックは存在しません。普段のスタジアム外周は遊歩道や緑地として整備されており、競技設備はありません。国際大会などの特別なイベントが開催される際にのみ、神宮外苑の近隣用地に仮設トラックが建設され、終了後に解体撤去されます。

Q2:なぜ代々木公園の陸上競技場(織田フィールド)を常用しないのですか?
A2:代々木公園陸上競技場と国立競技場は約1.5キロメートル離れており、原宿・千駄ヶ谷の市街地を挟んでいます。国際大会の規定ではサブトラックから競技場へのスムーズな移動が大切ですが、一般道を通るシャトルバス移動では交通渋滞や警備上のリスクが高く、競技直前のアップ環境として理想的ではないため常用は極めて困難です。

Q3:今後、神宮外苑内にサブトラックが常設される可能性はありますか?
A3:現時点での実現可能性は限りなくゼロに近い状況です。神宮外苑の再開発エリアは神宮球場や秩父宮ラグビー場の移転、高層棟の建設などで敷地計画が固まっており、400メートルトラックを収容できる平坦な都有地・都有施設は残されていません。今後も大規模大会ごとの仮設対応が基本方針となります。

まとめ:国立競技場のサブトラック問題が問いかける日本のスポーツレガシー

国立競技場にサブトラックが存在しないという現実は、都市計画の過密さ、建設コストの壁、そして国家プロジェクトとしての迷走が凝縮された象徴的な結果と言えます。

大規模な国際大会を開催するたびに、数億円から数十億円の仮設設置費用を税金や大会運営費から支出し続けるスタイルが本当に持続可能なのか。それとも、ナショナルスタジアムとしての格式を維持するための避けられないコストと割り切るのか。

民間運営への移行が進み、徹底した収益性が問われるフェーズに入ったからこそ、スポーツの聖地としてのアイデンティティと現実的な運用コストのバランスをどう保つのか、息の長い検証が求められています。

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桂木 凌

野球・サッカー・五輪競技を11年取材。リーグ公式記録と球団発表を照合し、数字は一次ソースで裏取りします。

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